2008-05-11

黒いトランクには幾つか種類がある

角川文庫から出てゐるのを読んだのだが、その頃はほかには出てなかつたと思ふ。でもいまは光文社文庫と創元推理文庫からも出てゐて、光文社のは最初に出版された形、創元が加筆・訂正後の決定稿ださうです。ぢや、角川のはどうなんだ、と疑問が湧くけど、……いつか読み比べてみたいものだと思つてる。
アドバイスを一つ。メモを取ることをお薦めします。もしも犯人を当てたい、トリックを見破りたいと思ふなら、なほさらです。トランクがどこにあつたか。そして誰はどこにゐたか。その動きが頭に入らないと謎が解けません。犯人の目星は付いたけど、トリックは破れなかつた。
蛇足ながら、鬼貫警部がどの辺で登場するかで難解度が計れる、と誰かが鮎川作品のどれかで書いてるけど、この「黒いトランク」は凄く早く登場します。
──まあ、ミステリーにはいろんなタイプがあつて、かういふタイプを本格ものと称して純文学みたいに本筋だ、王道だとする立場もあるやうだけど、純文学つてのもさうだけど、葛西善蔵みたいに極端な私小説も産んでしまふからねえ。元々娯楽なんだから、偏つちやふと却つて詰まらなくしちまふよね。