2008-07-24

松本清張「点と線」はヒドいと思ふ

初めて読んだときもさうだつたけど、これ、滅茶苦茶ぢやないか。ホームでの四分間トリック。これだけのために書かれた小説だと思ふ。先づ、このトリックは本当に必要なんだらうか。普通に心中で処理されてしまふんぢやないの?駅での目撃証人なんて必要ないだらうに。これが却つて疑惑を生んでゐないか。死体の入つたトランクの移動だつて不自然なんだけどさ。パロディだつたら拍手しちやふけど。本格推理小説にはみんなこの手の不自然さがある。九州で殺してアリバイは北海道出張中なんて作り過ぎだよ。バカバカしい。北海道にゐたなんてアリバイはアリバイのためのアリバイでせう。それに刑事が矢鱈と出張する。北海道行つて来ます、福岡行つて来ます、熱海行つて来ます。金持ちだねえ、警察は。所轄が違ふといろいろ難しいみたいなんだけど、そんなこと一切触れない。どこがリアリズムなんだい?省庁の管理職と業者の贈収賄なんていふ古臭いテーマを糾弾してる風な姿勢・ポーズも困りものだ。これもさうだけど、基本的に解決篇が手紙(とくに遺書)での種明かしが一番ズルいと思つてる。その次はラストで犯人が真実を語るパターン。それは小説ではなくてテレビドラマのノベライズだよ。「黒いトランク」も手紙で謎解きの部分があつたかな、確か。それでも面白いものは面白い。読む進むスリルがあるかどうかで決まる。「点と線」には新鮮味もスリルも感じない。