2008-01-09

素人の時代

敢へて、今は素人の時代である、と言つてしまはう。世の中全体のことではなくて、お笑ひの世界のこと、テレビなどのメディアに登場してゐる人たちのことだ。尤も、そこに世の中の雰囲気といふものが、どこかに反映してゐないとは言へないだらうが。
喋りで人を笑はせる。──これは簡単なことではない。実際自分でも下手な素人落語で人前に立つた経験があるから言へる。逆に笑はれることは容易い。海パン一丁で奇声を発し「関係ねえ」もないもんだ。面白いけどお笑ひの芸としてはオレは認めない。素人だから。忘年会なら受けるだらう。でも毎年それぢやあ、まはりは白けるよ。
半分笑はれてゐるのだ。最初は度肝を抜かれる(大袈裟に言へば、だけど)。でも、二度目以降はだんだん苦笑ひになつてしまふのだよ。かういふ芸人が多い。そんで二匹目の泥鰌が平気だし。まあ、テレビで取り上げるのは、大抵さういふインパクトが強くて多少エッチで下品で、をんなこどもが喜ぶもの──差別的な発言だと言はれるかも知れないが、凡てのをんなこどもがさうだ、と言つてるのではありません──と、最近の相場は決まつてる。第一、番組を作る側がウケを狙つてゐるのが、一番テレビを見る人たちであり、さういふをんなこどもに左右されてしまふ(自分を含めた)馬鹿な男でもあるから、だ。
素人ばかりでもいいさ。でも、いまの素人流行りの対極にあるのが、どうやら「こだはり」であるらしいのが淋しい。ミシュランの三ツ星がどれほどのものか知らないが、寿司屋や料亭に三ツ星付けられて喜んでるなんて情けない。解つて堪るか、ベラボウめだよ。肉食つてりや、いいんだよ、解りもしねえことに口出ししねえで。海外で褒められて、それで格が上がると思つてる、その根性がさもしいやね。ノーベル賞貰つたから文化勲章上げちやひませう、てなもんだ。──おッと、話が逸れちまつたが、素人の対極は玄人=「職人」でなくてはならない。けして「芸術家」でも「天才」でもなく(いつまでも、そんな19世紀──200年もまへだ!──のロマン派が捻り出した概念に振りまはされてゐないで)、「職人」でなくちや。それが健康な社会だと思ふ。
「天才」「芸術家」のレオナルド・ダ・ヴィンチだつて「職人」なんだ、つて。ミケランジェロだつて、さう。徒弟修行で師匠に弟子入りして腕を磨いた「職人」だつたのさ。「職人」が描いたことになつちやふと、「聖アンナと聖母子」を見ても感動しない、つてことはないでせう?